LayerX AI・LLM事業部の伊藤郁海（@ito_ikumin）です。
当事業部では先日、「Forward Deployed Engineer（FDE）」という新たなポジションの採用を始めました。
FDEの詳細や、採用開始に至った背景については、FDEチームのマネージャーである恩田が以下の記事で紹介しています。
本記事では、FDEに求められる役割について、実務でその一部を担ってきた私の視点から具体的にご紹介します。
LayerX AI・LLM事業部におけるFDEの役割と業務概要
FDEの主な業務内容は、採用ページにて以下の4点が記載されています。
- 業界、会社、部署ごとに多様なエンタープライズの業務にお客さまと直接連携しながら深く入り込み、業務ドメインを迅速にキャッチアップし、お客さまの業務の課題を構造的に整理し、Ai Workforceを使用してソリューションを設計、実装する
- 主に事業開発&コンサルティンググループと小規模なチームで活動し、プロジェクトの技術責任者として、本質的なビジネス課題に向き合い、チームの戦略を立案・遂行する。具体的にはAi Workforce導入プロジェクトにプロフェッショナルとして参画し、顧客ヒアリング・業務理解、ドキュメントの構造化、AIワークフロー/エージェントの構築、LLMのアルゴリズムのチューニング、精度評価、導入の意思決定のサポート、お客さま環境での導入の支援を行う
- 担当するプロジェクトだけでなく、Ai WorkforceおよびAI・LLM事業部の業務生産性を向上するための社内基盤の開発・改善を行う
- 複数の導入プロジェクトを経験し、異なるお客さまの業務を抽象・共通化し、ソリューション化を推進する
当事業部の大きな特徴の一つが、「Ai Workforce」という「プラットフォーム型」のプロダクトを有している点です。
ホットな技術やビジネスの移り変わりが非常に激しいAI業界ですが、当事業部はその立ち上げ当初から一貫して、エンタープライズ企業の文書処理業務にフォーカスしてきました。文書処理業務は、業界・企業ごとに多様で、運用方法も様々です。そのようなタスクに対して、PoCを含め、個々の課題やユースケースに特化した個別アプリケーションをその都度開発するのではなく、Ai Workforceというプラットフォーム自体を常に進化させながら、その上で構築するソリューションによって課題を解決するアプローチをとってきました。
このような背景から、お客さまの多様な課題に対応しつつ、プロダクト開発とも密接に関わるFDEの存在は事業部にとって非常に重要です。
以下では、上記の業務内容をより深く紹介します。
プロジェクトの技術責任者としてソリューションの設計・実装をリードする
各プロジェクトにおいてFDEが担う役割は多岐にわたりますが、代表的なものとして以下の2点が挙げられます。
技術的な実現可能性とビジネス価値の両面から、解くべき課題を見極める
AIプロジェクトの成否は、解くべき課題を正しく設定できるかに大きく依存します。
FDEは、LLMやAi Workforceの特性を踏まえながらお客さまの業務を分析し、技術的な実現可能性だけでなくビジネス価値も考慮した上で、それらのバランスを取りつつプロジェクトの方向性を定めていきます。
LLMを活用した業務効率化において求められる精度は、業務内容によって大きく異なります。たとえば、ある業務では90%の精度でも不十分な一方、別の業務では60%でも劇的な効率化が実現されることもありえます。また、定量的な精度指標だけでなく、ソフトウェア上のユーザー体験や業務プロセスへの影響といった定性的な部分も実運用においては重要です。
これら複数の要素を総合的に考慮し、解くべき課題を見極めることが、FDEの重要な役割の一つです。
実業務に耐えうる精度を実現する
近年のLLMの進化により、PoCレベルのワークフロー構築は比較的容易になりました。しかし、実際の業務で使える水準に仕上げるには、深い業務理解とタスクに応じた適切なエンジニアリングが未だ必要です。特に、業務ルールが複雑な場合や大量のドキュメントを扱うような難易度の高いユースケースでは、その差が顕著に現れます。そしてまさにこのようなユースケースこそ、人手では処理負荷が高く、効率化が強く求められている領域です。また、AI Workforceは多機能かつ柔軟性に優れており、多様なユースケースに対応できる点が特長です。一方で、それを最大限活かすには、プロダクトを細部まで理解している必要があります。加えて、既存機能だけで課題を解決できない場面では、要件を整理し、プロダクトチームと連携して新たな機能開発を行うこともあります。
FDEには、Ai Workforceを業務で本当に使えるものにするために、課題に対する具体的な解決策を実装していくことが求められます。
Ai Workforceの進化に貢献する
当事業部のプロダクト開発チームは、「Agentic Workflowチーム」と「Ai Workforce& WorkflowBuilderチーム」に分かれ、日々プラットフォームの強化に取り組んでいます（プロダクトチームに関する最新情報は、以下のブログをご覧ください）。
これらのチームはプロダクトビジョンに沿って戦略的に開発を進めていますが、そのビジョンや開発戦略を真に価値あるものにするためには、お客さまの声や現場からのリアルなフィードバックが不可欠です。この点において重要な役割を果たすのがFDEです。FDEは、お客さまと直接コミュニケーションを取りながらシステムを設計・構築するため、プロダクト改善に直結する貴重なインサイトを得る機会が多いです。当事業部ではプロダクトマネージャーやソフトウェアエンジニアも商談やお客さまヒアリングに参加しますが、FDEは接点の量と深さの両面で彼らを上回り、より解像度の高いインサイトを得やすい独自のポジションにいます。
現場から得られたインサイトをAi Workforceの進化につなげることがFDEの重要な役割の一つです。
現在、市場には多くのノーコード／ローコードツールが存在します。その中でAi WorkforceがPoCを超えてエンタープライズ企業のお客さまの実業務で活用されているのは、初期メンバーが粘り強く現場と向き合い、適切なユースケースの見極めと実装を進めてきた成果です。そして、Ai Workforceがプロダクトとして形になった今、事業は次の成長フェーズに入り、ユースケースやお客さまの広がりが加速しています。私たちの事業部はまだ小規模でリソースも限られているため、FDE自身がAi Workforce本体の開発面でも手を動かし、必要な改善や新機能の実装を行うケースも少なくありません。現場に最も近い存在だからこそ、的確で迅速なプロダクト改善が可能になります。
Ai Workforceをより多くのお客さまに届ける
これまでのプロジェクトでは、お客さま一社一社の業務に個別最適化されたシステムを設計・実装する進め方が基本でした。しかし、多くの検証や導入の事例が蓄積された現在、それらの知見から業務プロセスの共通構造や再現可能なパターンが見えてきました。
こうした状況を踏まえ当事業部では、個別の知見を抽象化し、汎用的なソリューションとして再構成する取り組みを進めています。先日の「リースソリューション」もその一つです。
このソリューション化には、実際のプロジェクトを複数経験し、業務の構造や成功・失敗のパターンに手触り感を持っているFDEの視点が役立ちます。価値あるソリューション化には、「適用可能な条件は何か」「個社の状況ごとにどこまでの精度を実現できるか」「どの部分のカスタマイズが必要か」など、高度な判断が求められます。この一端を担うのもFDEに期待される役割です。
おわりに
従来のソフトウェア導入プロジェクトでは、ビジネスメンバーがお客さまの業務理解や課題整理、コミュニケーションを担い、エンジニアが具体的な解決策の設計や実装を担うなど、明確な役割分担があるケースが少なくなかったと思います。しかし、LLMやノーコード／ローコードツールの進化により、特にLLMを活用したプロジェクトにおいては、こうした役割の境界は徐々に曖昧になっています。実際、我々のプロジェクトにおいても、ビジネスメンバー自らが設計や実装にまで関与するケースも増えています。とはいえ、エンジニアの役割が軽くなったわけではなく、むしろ、高度な技術的判断や、複雑な要件への対応が求められる場面は増加しており、それに応えられるスキルを持つエンジニアの存在は、これまで以上に重要になっています。
FDEは、技術とビジネスの両方を横断しながらプロジェクトを前に進める役割を担います。「お客さまにとっての価値は何か」「どのように業務改善につなげられるか」といった視点を持ちながら、技術力を活かして課題解決に取り組む。そんな現代的なエンジニア像を体現するポジションだと感じています。
FDEに求められる役割は多岐にわたり、一人で完璧に担うことは容易ではありません。私自身も日々試行錯誤しながら、チームメンバーと協力しつつ、経験を積んでいる最中です。LayerXのAI・LLM事業部では、事業開発・コンサルタント・エンジニアが一体となって、プロジェクトを推進しています。大手SIerやITコンサル出身のメンバーも多く、ビジネスメンバーであっても技術に対する深い知見を持っている点が当事業部の強みです。多様なバックグラウンドを持つメンバーと対等に議論しながらプロジェクトを進められる環境は、非常に刺激的で学びの機会にも恵まれています。エンジニアリングに強みを持ちつつ、ビジネスにも関心がある方にとっては、非常に面白い環境だと思います。
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