
この記事は LayerX Tech Advent Calendar 2025 の8日目の記事です。
前日は、 rerorero さんの 「Datadog Logs の検索体験を Snowflake に持ち込む Chrome 拡張」でした。
こんにちは、バクラク事業部CREグループのtanisuke( @taaag51 )です。ストレイテナーというバンドを推し、愛し、人生を捧げている者です。
2025年8月にLayerXに入社し、1人目 CRE(Customer Reliability Engineering)として組織の立ち上げを担当しています。 前職から数えると、CRE歴5年目になります。(年が明けると6年目)
この記事では、その5年間を経て改めて見つけた「現時点の私なりの結論」を真空パックしてお届けします。 まさに立ち上げ中のCRE組織について、立ち上げ過程で考えたことや苦悩、そこから気づいた新しいCREのかたちについてお話ししています。
CREの可能性を信じ続けた一人のエンジニアの現在地として、同じように迷う誰かのヒントになれば幸いです。
- TL;DR
- 1. 「CREって結局何?」
- 2. バクラクがCREにBetした理由
- 3. 「届けたい価値」から逆算して見つけた "CRE"
- 4. 私がCREとして実現したい世界観
- おわりに、未来の CRE を一緒に作りませんか 🙌
TL;DR
- 「提供価値にこだわる」の延長線上にCREがある
- 「新機能開発」と「既存プロダクトの進化」の 「トレードオフをトレードオン」 にするのがバクラクCREの使命
- CREを職種ではなく ソフトウェアエンジニアによる行為・文化 と捉え、プロダクトに信頼性を実装する (Customer Reliability as Code)
この記事は、私の実体験の流れをベースにした4つのパートで構成されています。 CREの定義に悩み続けた5年間の話から始まり、LayerXがなぜ今CREにBetするのかという事業的な理由に、そこから私が改めて "CRE" に辿り着いた思考プロセスを経て、最後に、実現したい世界のお話に至ります。長文ですが良ければお付き合いください。 もちろん、読みたい部分だけ読んでいただいても構いません。
1. 「CREって結局何?」
自身の経験をふりかえる
「CREって何をやる職種なんですか?」
この問いに何度も向き合ってきました。 冒頭で記載したように、私は前職でも1人目CREを担い計5年ほどCREに取り組んでいます。それでもなお、「顧客の信頼をエンジニアリングで向上させていく」とは具体的に何なのか、明確な答えを持てていない感覚がありました。
CREは2016年にGoogleで誕生し、来年で10年を迎えますが、CREの本があるわけでもなく、各社で様々な形があります。それは、信頼性を提供する顧客との接点となるプロダクトが多種多様だからだと考えています。 例えば、経理パーソンの方向けのプロダクトと、エンジニア向けのプロダクトでは、サービスも接点もまるで異なります。 こういった特性により、「CREはこうである」の共通解がなかなか持てずに抽象的な概念であるまま、という解釈をしています。
そのため、携わるプロダクトが変わるとまたゼロからCREを考え、「自分たちはどうありたいのか」を描く必要があります。 SmartHR社CREのa-knowさんも、先日同じような問いをツイートされていました。CREの特性上、避けるべきではない問いと受け止めています。
CRE(的なロール)に一番必要なのは、やっぱりその組織なりのビジョンなのだと思うのだよな〜〜
— a-know (@a_know) 2025年11月14日
CREの特性上、課題があればまず飛びついてそれを解決するのが好きな人たちが集まっていると思っています。しかし、課題解決だけをやっていると自分を見失い、「結局CREって何なんだっけ…」という課題に戻ってきてしまいます。
CRE経験者から見たバクラクの開発組織
私が入社前に抱いていたLayerX、バクラクは「コンパウンド組織でありプロダクトが多い」「常に顧客の声を聞き、プロダクトの改善サイクルが早い」という印象を持っていました。
その印象は入社してもなお変わることなく、全社的に信頼性への意識が根付いていることを実感しました
例えば、職種を問わず誰もが「ここ、ちょっと使いづらいかも」と感じた点をコメントする「気になり」文化や、ちょっとした違和感を口にする「そぼぎ(素朴な疑問)」文化、ユーザー視点で”やさしい” プロダクトになるよう改善を積み重ねる「やさしさ」文化があります。 エンジニアが日常的に顧客ヒアリングに参加し、ユーザーの課題に深く向き合うことも当たり前です。
そこで感じたのは、「バクラクは既に組織としてCustomer Reliability Engineeringを体現しているじゃないか」ということでした。
全員がCRE的な動きをしている。ではなぜ、あえて専任のCRE組織を作る必要があるのか。 そこには、コンパウンド戦略特有の課題がありました。
2. バクラクがCREにBetした理由
前提として、バクラクはコンパウンド組織で開発速度が早く、新機能が次々とリリースされています。この成長スピードは絶対に止めたくありません。
しかし、新規開発にリソースを集中させると、既存の使いづらさが後回しになるリスクもあります。「認識はしているのですがまだ改善できていない」とお伝えするしかなかった瞬間のやるせなさは今でも覚えています。
だからこそ私たちが目指すのは、長期的な信頼という「資産」を積み上げていくこと。小さな "やさしさ" の積み重ねが、10年後の信頼になります。バクラクがCREの組織を作ったのは、この長期的な信頼資産を守り、育てるための意思表示です。
LayerXには「提供価値にこだわる」という行動指針があります。
プロダクトが提供する価値は常に、お客様がご負担する利用料金(コスト)を上回ってないといけない。
新機能をリリースすることは、新しい提供価値を作ること。既存の使いづらさを改善することは、その提供価値を守り、強化すること。どちらも同じ軸の上にあり、CREの活動はこの提供価値を守り、強化するための投資です。
それを踏まえ、どう「提供価値を守り、強化する」を実現していけばよいのか...ここからは、これまでのCRE経験からの悩みとバクラクCREとしてなすべきことを整理する中での私の気づきを、時系列(気づいた順)で書き並べていきます
3. 「届けたい価値」から逆算して見つけた "CRE"
既にCREができている組織で専任CREは何をなすのか
バクラクのCREは「信頼が低いプロダクトを上げる」のではなく、「既に高い信頼を得ているプロダクトをさらに高いステージに引き上げる」ことが必要でした。
このとき「当たり前のレベルを上げる」という言葉に出会いました。2024年の "メラ期" を経て定着した文化です。高いレベルをさらに高みに進める方が大変ですが、研ぎ澄まされたプロダクトこそ、お客様の日常に溶け込む滑らかな体験を提供できます。
バクラクメンバーと対話する中での気づき
一度CREという役割のことは忘れて、「自分がどうしたいのか」を言語化し、バクラクの様々なメンバーと対話していきました。
あるメンバーとの会話で「CREのやりたいことはエッジとエッジの間をなめらかに繋いで、ささくれを取る仕事なのでは」という言葉が出てきました。機能と機能の隙間、チームとチームの境界、プロダクトとお客様の接点。そこにある「ささくれ」を見つけて、なめらかにしていく。それが自分のやっていきたいことなのだと、ようやく言語化できました。
また、「ソフトウェアエンジニアとやろうとしていることや向いている方向は同じだけど "軸足" が違うだけ」という言葉にもハッとしました。CREと他のエンジニアの違いを端的に表現していました。
コンパウンド戦略の中、各チームが独立して開発を進める中で、顧客体験の一貫性をどう担保するか。これらの課題を考えていくうちに、「これはCREが担うべきことだ」と気づきました。
発揮したい価値を描いてCREに至る
GCP(当時) CREの記事にこうあります。
"不安を抱えるお客様は、その気持ちを理解してもらいたいと考え、思いやりや人間性を求めているのです。"
"「そう感じているのは自分たちだけではなく、プロバイダーも自分たちのことを真剣に考えている」といったことを感じ取りたいのです。"
結局CREとは、使い続けてくださるお客様に「あなたのことを考えています」と結果で示すことです。世間のCRE定義から役割を見出したのではなく、解決したい課題を掘り下げた結果、たまたまCREに帰結しました。この順序こそ、実現したい未来をCREに投影して「自分たちがCREなんだ」と気づくために欠かせないプロセスでした。
LayerXには「ポジショントークの罠」という教訓があります。「CREとは何か」から入ると、CREの枠に縛られてしまう。本来は「ユーザーにどんな価値を届けたいか」が先にあり、その行動に後から名前がつくべきです。
なお、この記事を書く過程でも、私はこの罠にハマっていました。5年やっても、まだこの罠にはまる。だからこそ、常に"CRE"に縛られていないか問い続けることが欠かせません。
ここまでの気づきを整理すると、3つのことが見えてきました 1つ目は、「ささくれをなめらかにする」というCREが実現したいことの抽象的な表現 2つ目は、「軸足が違うだけ」というエンジニアとの関係性 3つ目は、「課題から逆算してたまたまCREに帰結した」という順序の重要性です
この3つを踏まえて、バクラクCREはどう行動していくのか、 こから先は、「気づき」を「方向性」に変換していった結果をお話しします。
ユーザー価値のために何でもやる
それを踏まえると、CREだからこれをやる、という固定された業務や役割はありません。 私たちはユーザーの価値を最大化するために、状況に応じて手段を選びます。
場合によってはハードな開発に取り組むこともあれば、お問い合わせをそもそもなくすような仕組みづくりにBetすることもあります。 プロダクト単位(縦)で深く入り込むこともあれば、プロダクト横断(横)で共通の課題を解決することもあります。
その具体的なアプローチとして、私たちは2つの考え方を大切にしています。
Customer Reliability as Code
私たちがやっていくことを言語化した造語として Customer Reliability as Code という言葉を考えました。
お問い合わせが来るということは、お客様がどこかで困っているということです。困ってからサポートで解決するのではなく、そもそも困らない設計ができないか。エラーが発生してから対応するのではなく、エラーが発生しない仕組みをコードで実装できないか。
「ここでお客様が迷わないように」「困らないように」というエンジニアの意志を、コードとして実装する。具体的には、エラーに遭遇したユーザーがいかにスムーズに復帰できるかという体験の設計や、アクセシビリティ (a11y) 対応なども、このアプローチに含まれます。これが私たちのCREのあり方です。
トレードオフをトレードオンにする
「今期は新機能開発に集中したいから、細かいUX改善はトレードオフにせざるを得ない」というケースはどうしても生じてきます。当然ながら、事業を成長させるためには、新しい価値を届け続ける必要があります。
「最先端の開発にリソースを割きたいが、既存のお客様に長く使い続けていただくための価値も最大化したい。どう両立するか?」 「問い合わせを効率化するのではなく、そもそも問い合わせが発生しないプロダクトにするには?」
こういったトレードオフを、トレードオンにする。新機能開発の勢いを止めずに、顧客からの信頼を獲得し続ける。どちらかを犠牲にするのではなく、両方を同時に実現する。それがバクラクCREの使命です。
エンジニアとしてのCRE
これらのことを実践するにあたり、私は「CREは職種ではない」と考えています。「ソフトウェアエンジニアとして、Customer Reliability Engineeringに取り組んでいます」、これが私たちのスタンスです。「職種がCRE」となっていると役割が曖昧になりがちですが、「職種がエンジニアでCREing(行為)をやっている」となると、方向性が定まってきます。
CREはプロダクトコードを書き、アーキテクチャを設計し、技術的な課題を解決します。開発チームと同等の技術力を持ち、同じ土俵で議論、協働できる存在。だからこそ、ハイスキルのエンジニアがこの領域に挑戦する価値があると考えています。技術力 × 顧客理解 × 行動量の掛け算で生まれる価値は、単独の能力では実現できません。
ここまで、バクラクCREの考え方とアプローチを「組織としての方向性」として記載してきました。 最後に、この方向性を実現する「私個人としての姿勢、思い」についてお話しさせてください。
4. 私がCREとして実現したい世界観
私はよく「見えない妖精さん」のような存在でありたい、と例えています。お客様がふと気づいたら「前より使いやすくなっている」、そうした「当たり前品質の継続的向上」を、意識されないままに積み重ねていきます。
派手なことというよりは、確実に価値を積み重ねることを意識します。
常に意識しているのは「誰が嬉しくなってくれるのか」。コードを書くとき、エラーメッセージを考えるとき、仕様を設計するとき。この改善で誰が嬉しくなるのかを想像します。お客様かもしれませんし、一緒に働くエンジニアかもしれませんし、将来このコードを読む人かもしれません。その「嬉しい」の積み重ねが、プロダクトの信頼性を形作っていくと考えています。
「顧客信頼」の定量化はまだ正解が見つかっていません。今は泥臭く一つのプロダクトに入り込み、実感を伴う成功体験を作ることを優先しています。
まだ立ち上げ期で、試行錯誤の毎日です。しかし、この道を正解にしていきます。 「CREって何なんだ」という苦悩を経たからこそ、今ここに立てているのだと感じています。
私は「いつも世界を変えるのは熱狂である」と信じています。熱狂を持って、日本のCREにオーナーシップを持ってやっていきます。
おわりに、未来の CRE を一緒に作りませんか 🙌
バクラクCREは、経験豊富なエンジニアにとってもチャレンジングで刺激的な環境です。 1年後にこの記事を読み返して「まだ青いことを言っているな」と笑えるくらい、非連続な成長を続けていきます。
CREについてお話ししたい方、バクラクCREにご興味のある方は、ぜひ Open Door でお話しさせてください。
今回お話しできなかった「Embedded CRE / Enabling CRE」の具体的なアプローチについては、2025/10/23に開催された「CRE Camp #3」でお話ししています。よろしければこちらもご覧ください。
明日の LayerX Tech Advent Calendar 2025 もお楽しみに。