こんにちは、LayerXから三井物産デジタル・アセットマネジメント(以下MDM)に出向してエンジニアとして業務効率化に取り組んでいるzabeth129です。私は業務知識をインプットしてそれを何かしらのシステムに落とし込む、0→1の役割を担うことが多いです。
今日は不動産/インフラを扱うアセットマネジメント会社のビジネスの要である物件情報整理と選別をデスクトップアプリを開発して高速化した話をします。 アセットマネジメント会社やMDMのことに関しては下記記事をお読みください。 tech.layerx.co.jp
物件情報獲得から売却までの流れ
アセットマネジメント会社では有力な投資物件を見つけたら投資家さんを集め、投資家さんのお金と銀行のローンを活用してその物件を購入します。一定期間運用した後、その物件を売却して投資家さんと銀行にお金を返します。これがアセットマネジメント会社における物件情報獲得から運用終了までの流れです。
つまり、より良い物件情報を入手し、その物件の投資判断を実施することがアセットマネジメントビジネスのスタートになります。
今回、弊社では赤で囲んだ範囲における下記2つの課題を効率化するデスクトップアプリを開発しました。
- 物件情報をデータベース化するコストが大きい
- 物件の投資判断に時間がかかる
開発したもの
ElectronとVueを使ってデスクトップアプリを開発しました。このアプリができることは以下の2つです。
- 物件資料からOCRで各種情報を読み取ること
- 入力した物件情報のCSVエクスポート
- 読み取った物件情報+αの情報に基づく簡易投資判断
www.electronjs.org jp.vuejs.org
なぜElectronデスクトップアプリなのか話す前に効率化した業務の内容と背景をお話させてください。
効率化① 物件情報の入力効率化
物件情報の入力の課題
弊社では仲介事業者の方から定期的に弊社の基準に見合いそうな物件の情報を紹介していただいており、紹介いただいた物件情報の中から実際に買い付けに至るのは1000件中数件ほどになります。見送った案件に関しても将来的にデータを活用した業務効率化を行いたいと考えており、すべて残すようにしています。
ただ、物件資料は基本的にPDFなので1つ1つの情報をシステム側に手入力する作業が発生します。1物件あたり数分かかる上に単調な作業なので数が多くなればなるほど心的負荷が高く、入力ミスも発生しがちです。
OCRによる入力補助システムで解決
面倒な作業を少しでも楽にするため、弊社では物件情報が記載されたPDFからOCRで物件情報を自動で読み取るシステムを開発しました。
LayerXインボイスでは請求書の情報をOCRで読み取っていますが、MDMでは物件情報をOCRで読み取っています。LayerX インボイスの開発チームもOCRに取り組んでいるため、彼らの知見を借りることで高速に開発することが出来ました。
請求書と比べて読み取る項目数が多いほか、読み取る概要書によって記載の有無にばらつきがあるため全問正解はなかなか難しいですが、7~8割程度の精度を確保できています。
効率化② 物件の投資判断の高速化
入手した物件が投資先として良いかどうか判断するために「アンダーライティング」という業務を実施します。
アンダーライティングとは
アンダーライティングでは物件の賃料収入や運営コスト、その他諸々の条件を加味した上で利回りを計算したり、5~10年先に物件の価格がどうなるかシミュレーションしたりする業務のことです。この結果に応じて買付判断を行う他、出資いただく投資家さんや融資をしてくださる銀行への説明にも使いますので非常に重要な業務になります。
アンダーライティングの課題
アンダーライティングは物件の様々な細かい情報を加味した上で実施するため、最低でも半日以上の時間が必要になります。そのため「もしかしたらいい物件かもしれない」という物件すべてに対して実施するのは現実的ではありません。
アンダーライティングを素早く行えれば投資判断も早くなるため優良物件に対して早くアクションを取ることができ、アセットマネジメント会社の競争優位性も向上します。
簡易アンダーライティングを開発してみた
上記の課題を踏まえ、弊社担当者の知見や専門家の経験則を組み合わせた簡易アンダーライティングシステムを開発しました。物件概要と収益情報を入力するだけで簡易的なアンダーライティングを実施することができます。
詳細なアンダーライティングと比べれば精度は劣りますが、簡易アンダーラィティングの結果をもとに不要な物件のフィルタリングを行うことはできます。通常なら半日から丸1日かかる業務をたった30分に圧縮することに成功しました。
(※実際に買付を実施する際には簡易アンダーライティングではなく詳細なアンダーライティングを実施します)
なぜWebアプリではなくElectronを使ったデスクトップアプリなのか
理由は3つあります。
①Web知識だけで作れる
Electron自体はJavaScriptがわかればすぐに使えますし、UI作成は通常のWeb開発と全く同じです。
②インフラの面倒を見なくて良い
弊社ではライセンス取得後にリリース予定のプロダクト開発に、開発リソースを重点的に投下しており、業務効率化に当てられるリソースは限定的でした。そうした制約の中で、効率化をスピード感をもって実現することを考えた結果、APIサーバーなしでビルドしたファイル単体でも動くデスクトップアプリを開発することにしました。
当然機能面で様々な制約が発生します。しかし、手を止めずに早いタイミングで業務効率化に取り組んだことで次の業務効率化の一手が見えるようになり、非常に良い判断でした。
③すぐに手元でビルドして直せるので、爆速で改善できる
今回の開発はPoCとしての位置づけのため、いかに早く改善サイクルを回せるかがポイントでした。物件資料や実際の物件は様々なばらつきがあるため、頻繁にロジックの修正や特別対応が必要になるからです。
ローカルで単体で動くデスクトップアプリであればデプロイ不要のため、アンダーライティングの担当者とディスカッションしながら日々リアルタイムにロジックを改善しています。
仲間募集
まだまだ効率化したくてしょうがない業務が山のようにあるのですが、リソースが足りません!ぜひみなさんの力を貸してください!
アセットマネジメントに関する開発は敷居が高く見えるかもしれませんが、弊社には知の高速道路が敷かれているので大丈夫です。少しでも気になった方は是非気軽に下記リンクからご応募ください。
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