こんにちは!LayerXのperoyuki_(丸野)です。最近は海底のウニをひたすら割り続ける動画を見て癒やされております。よろしくおねがいします。
私は、もともとProducer兼なんでも屋として、スタートアップ界隈で6年以上toCプロダクト開発・運営に関わってきました。現在はLayerXに所属しながら、三井物産デジタル・アセットマネジメント株式会社(以下、MDM)という会社の立ち上げに奔走しております。
この会社は2020年4月に、三井物産54%、LayerX36%、SMBC日興証券5%、三井住友信託銀行5%の4社JVでスタートした会社です。
本記事は「なぜLayerX(as エンジニア集団)が、アセマネ会社に関わっているのか」というお話をさせて頂きたいと思います。
※今後MDMに関わるメンバーからの技術記事が出てくると思いますので、本記事はその入門編として読んで頂くと良いかもしれません
本記事のサマリ
✓ (不動産)アセマネ会社には超非効率なプロセスが存在
✓ 様々な理由で減りゆく投資リターンを少しでも確保するため「効率化」はマスト
✓ そのためにOperation × Techで「どうアセマネ業務をリデザインするか」が重要
✓ 究極系は「日本の眠れる1,000兆円の現預金を動かす」という最高にワクワクするお仕事
そもそもアセマネ会社って?
アセマネ会社(アセットマネジメント=資産運用会社)とは、その名の通り、投資家さんから資金を預かりし、様々な対象資産に投資・運用し、そのリターンを投資家さんにお返しすることを生業としている会社です。
対象資産・形態は様々ですが、最もポピュラーな例は「投資信託」です。
例えば「グローバル×株式」や「新興国×債券」といった各アセマネ会社の方針に従って、投資家さんからの申込金を原資に、株や債券などに分散投資され、そのリターンが投資家さんに配分されます。
「自分で1つ1つの銘柄を探して、目利きして、売買するのが大変」という方にとっては、まるっとお任せできるのは嬉しいですね。
ちなみにMDMの対象資産は、こういった上場株式・債券などではなく、不動産・インフラ(発電施設、データセンター等の社会基盤となる資産)を中心に取り組む予定です。(理由はいくつかありますが、その1つは本記事の後の方に出てきます)
「ハンコ運動会」を始めとした"解き甲斐"のある課題たち
上場株式などを取り扱うアセマネ会社と異なり、不動産等の「実物資産」を取り扱うアセマネ会社では実にアナログなプロセスが今も尚残っています。
バラバラな、情報
例えば、アセマネ会社のビジネスの起点は「案件情報(例:こういう不動産が売りに出ますよ)の入手」になりますが、不動産の場合どのように情報をどのように入手するかと言うと、
方法 → 不動産仲介会社、売主からの地道な情報収集
形式 → 紙、メール、FAX、PDF(PPAP)、口頭でのコソコソ話、CD-R等と多種多様
内容 → 各社バラバラ。さらにデータが間違っているケースも(例:住所が違う等)
という現状です。
承認、承認、承認
アセマネ会社の特徴として「一挙手一投足に承認プロセスが必要」というものがあります。
例えば、運用中の不動産物件の「電球を交換する」という行動だけでも、複数の承認プロセスが必要になるケースがあります。これは、交換する電球の会計処理(資産計上されるのか/費用計上されるのか)であったり、交換する工事の発注先や価格は適切なのかであったりの確認が必要になるからです。(※電球で稟議が必要かどうかはアセマネ会社によります)
また、電球交換の事前承認だけでなく、工事終了後に電球交換代を支払うためにも、アセマネ会社内の然るべき人達が承認を行い、その証憑(ex.ハンコ付こういう送金してね用紙)を以て、代金の支払を資金管理を指図する形をとります。これにより従業員の誰かが「ネット銀行ポチ」でファンドの資金を動かせない仕組になっています。
これはアセットマネジメントが「投資家さんのお金を運用する仕事」だからであり、投資家さんの利益を阻害するような取引が起こらないようなガバナンスが構築されています。
さらに、アセマネ業界の「外部委託の文化」がここに拍車をかけます。
アセマネ会社は、電球交換等の物件回りの対応だけでなく、その請求管理業務、会計・資金管理業務等を外部委託しています。
ただでさえ、必要な承認プロセスがあるのに、ここに複数会社が絡むことで、承認プロセスは圧倒的に複雑なものとなります。通常は、これらのフローを「紙とハンコ」 を使うので、この一連の中で会社を横断する複数のハンコリレーが行われます。電球交換でこれですから、他の承認事項・他のアセットと考えると、ハンコリレーどころか盛大な「ハンコ運動会」が日々催されていることは想像に難くないでしょう。
今一度アセマネ業務を洗濯致し候
これらの課題解決は「〇〇のSaaS入れればおk」という簡単な世界ではなく、業界特性・業務を深く理解した上で、
「OperationとTechを掛け合わせて、どうアセマネ業務をリデザインするか」
という最高にワクワクする(そして超絶困難な)問題に帰着します。
MDMではまさにこの問題にチャレンジしており、今後のLayerXブログの中では、こういった取組を可能な限りご紹介していきたいと思います。
なぜ効率化が必須なのか?
なぜここまでしてアセマネ業務を効率化しなければならないのでしょうか。
まず、世界全体で「投資リターンが出にくくなってきている」という状況があります。
こちらの本によれば、2008年→2018年の10年間で、①世界のGDP成長 ②伝統的資産(株式・債券)市場規模 ③伝統的運用機関(年金・投資信託・保険会社)規模の3つには、
①GDP :1.3倍
②資産額:1.6倍
③運用額:1.8倍
の変化があったとのことです。つまり、世界経済の成長(1.3倍)に対して、株式・債券の時価総額はそれを越えて成長(1.6倍)をしているにも関わらず、資産運用ニーズの増加はそれを上回る勢い(1.8倍)になっています。世界経済の成長を上回るペースで投資されているので、投資リターンが下がるのも直感的に納得できます。(まさに「カネはあるのに、投資先がない!」という状況です。余談になりますが、LayerX代表の福島もよく「カネがコモディティの時代だ」と言っています。これはこういった世界的なカネ余りの状況で「ヒトが一層大事」という意味だと僕は解釈しています。)
そういった中で、アセマネ会社は投資家さんに少しでも多くのリターンを残すために「より魅力的な投資先の確保」と「コスト(運用報酬)削減」という2つに着手し始めています。
より魅力的な投資先の確保
「より魅力的な投資先の確保」で注目されているのが「オルタナティブ投資」です。 オルタナティブ(=alternative 代替)投資とは、いわゆる上場株式・債券等"ではないもの"への投資の意味で、不動産・インフラ・非上場株式・ヘッジファンド・コモディティ等です。 とある調査によれば81%の機関投資家が「今後オルタナティブ資産への配分を増やす」と回答しており、MDMが取り組むのも、まさにこのオルタナティブ資産の領域です。
コスト(運用報酬)削減
簡単にアセマネ会社の報酬についてご説明しますと、アセマネ会社は運用額に応じて手数料を頂くモデルです。(他にも不動産ファンドのように組成・売却時に報酬を頂くケースもあります)
この「運用報酬」について、投資信託を提供するアセマネ会社は、次々と報酬値下げを断行しています。
不動産やインフラを対象とするアセマネ会社では、まだここまでの激しい値下げ合戦はありませんが、近い将来同じ状況に晒されると思っています。 アセマネ会社のコストの殆どは人件費なので、こういった状況がオルタナティブ投資分野でも起こるという前提に立つと、今の段階から「いかに少数精鋭で、高いパフォーマンスを出せる構造を作るか」が重要であると考えています。
また「既存金融商品の高いコスト構造」についてもお話しておきたいと思います。
まずはこちらの表を御覧ください。
これは2020年3月末時点で、投資信託の顧客パフォーマンスがどうなっているのか?というデータです。
真っ赤ですね(笑)
これは、コロナによる影響を大きく受けているため全体的に損が出ているという見方もあり、それは事実なのですが、
これらのデータを見ると、販売会社コスト+信託報酬(≒運用会社等の報酬)が1%台後半(対面型証券会社の場合は2%を越えるものも)となっていることが分かります。
先程、世界経済の成長が10年で1.3倍とあったので、複利を無視して簡易的に計算すると年間GDP成長率は3%程度となりますから、これがリターンの源泉とすると、ここから2%もコストで持っていかれているということになります。年10%以上のリターンが出る時代は良かったかもしれませんが、個人的には今の環境下でこれは「高すぎる」と思います。
アセマネ会社の重要命題の1つは「魅力的な投資商品を創り出すこと」です。
今後のさらなる資産運用ニーズの拡大も見据えると、オルタナティブ資産という新しい裾野を開拓するだけでなく、直接投資家さんの利益にならない「ハンコ運動会」等は徹底的に効率化されていくべきだと思います。
MDMでは、ソフトウェアをフル活用しながら、これらの課題に先駆者として取り組んでいきたいと思います。
眠れる「銭」を、Activateせよ。
私は恥ずかしながら、MDMに関わるまで、自分の資産運用について、ほとんど何もしてきませんでした。(ビットコインをちょろっと買う程度w 関心はあったのですが、ちゃんと調べる時間がないことを言い訳にして、積極的に取り組めていませんでした)
ただ、これは私に限った話ではないようでして、日本は他の先進国に比べて、圧倒的に資産運用ができてない「預金大国」でもあります。
MDMのミッションは
眠れる「銭」を、Activateせよ。
です。最終的なゴールは、個人の資産運用の課題を解決し、日本の1,000兆円ある現預金を少しでも「働かせ」ることです。
1%でも10兆円です。単純な金額のみの比較ですが、ユニクロでお馴染みのファーストリテイリング社の時価総額が10兆円弱(2021/4/14時点)です。10兆円とはそれくらいの社会インパクトが出る金額です。1,000兆円の預金が動くことは、個人の資産形成に良いだけでなく、経済活動が活気づくきっかけになるかもしれません。
以前、製造業の課題解決に取り組むCADDiさんが兆単位プラットフォームへの10課題を公表されていて、非常に素晴らしいなと思いました。
MDMでも「1,000兆円の眠れる銭」の課題にチャレンジすべく、魅力的なオルタナティブ資産への投資機会を世の中に開放し、金融・資産運用業界のコスト革命を実現していきたいと思います。
最後になりますが、LayerXは各職種(特にエンジニアの皆さん!)絶賛採用中ですので、少しでも興味ありましたら一度カジュアルに話を聞きに来てください。