普段、喧々諤々に議論を交わすメンバーが改めて膝を突き合わせたらどうなるのか?──そんなきっかけから始まった、今回のPodcast「LayerX NOW!」。スピーカーは、LayerXの開発組織を牽引する松本勇気と榎本悠介。聞き手はLayerX取締役の手嶋浩己。
実は、前職では同僚だったという松本と榎本。現在は松本がFinTech事業とPrivacyTech事業、榎本がSaaS事業部をみています。「本気でぶつかれる仲」として社内でも有名な2人が“正反対”ながらも議論し続けているLayerXエンジニア組織の理想の形はどんなものなのか?本音を明かしました。
※この記事は[Podcast#47 「正しいプロダクトを作る」LayerXのエンジニア組織について【ゲスト:手嶋×松本×榎本】]の内容を再構成しています。
LayerXのエンジニア組織は各事業バラバラに見えるけれど…?
手嶋:まず、LayerXのプロダクト組織をどう見ているかを聞かせてもらえますか?
松本:ちょうど1年前に榎本さんとPodcastで話したときにも飛び出していた「爆速開発」がキーワードになると思っています。LayerXでは複数事業を各プロダクトチームが別会社のような勢いで各々集中して取り組んでいるところです。一見バラバラに思えますが、より手数を増やして「正しいプロダクトを作ろう」という思想が各チームで共通しています。なので、Podcastで話していた当時より「爆速開発」を強化していく姿勢がありますね。
手嶋:榎本さんはLayerXの創業メンバーで、ずっとプロダクトをリードしてきた立場です。意識していることなどは?
榎本:プロダクトにこだわれるエンジニアを揃えようとしているところでしょうか。どうすればお客様に喜んでもらえるのか、いいプロダクトを作れるのか、課題を解決できるのか。技術力はもちろん、ドメイン知識やお客様の声を実際に聞いて、職能にとらわれず自分の幅を広げられる組織を推進しています。それができるマインドを持つメンバーも集まっていますね。
先ほど松本さんが話していた「正しいプロダクトを作る」は、本当に的を得た表現です。使われないものを作らないことを念頭に置きつつ、お客様の裏ニーズまで考えながら早くアウトカムを出せるように意識して運営しています。
手嶋:「使われないものは作らない」といった言葉が飛び出しましたが、それを実践するには難しさもあると思います。そのあたりはどうですか?
榎本:LayerXではプロダクト開発にお客様へのヒアリングを積極的に取り入れています。ありがたいことに、すごく共感できる要望をたくさんいただいているんです。しかし、それをすべて聞き入れるのは難しいので、優先度をつけて取り組むべき内容を選んでいます。
お客様はHowのプロではありません。だから、要望にある業務フロー以外のアプローチのほうが課題を根本的に解決できたりする。僕らはいただいた要望を一度抽象化し、集約して、まとめて解決できる機能を考案・開発します。そのためにはお客様の業務フローを徹底的に理解し、ドメイン知識を得た上で踏み込んでいくことになります。これをPMやエンジニアでもできる組織にしたくて、頑張っているところです。
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手嶋:LayerX用語でいうところの「裏ニーズを把握する」ですね。松本さんはどうですか?
松本:「使いやすいもの」と「動くもの」は、実は違うんですよね。そして「動くもの」で止まっているプロダクトはけっこう多い。バクラクチームでは「どうすればもっと使いやすくなるのか」を徹底的に考え、アウトプットに反映しています。「神は細部に宿る」と言いますが、今まではtoCサービスで意識されていたものがtoBサービスでも行われているところが特徴です。
「個人に依存しない組織」or「卓越した個人がワークする組織」
手嶋:松本さんも榎本さんも、独立する部門のなかでそれぞれCTOという役割を担っています。松本さんの場合、CTOとして組織全体を理解しようと動いている印象ですが、だからこそ気にしていることはありますか?
松本:僕の仕事の1つは、バランスをとることだと思っています。例えば、CEOである福島さんは今どこにフォーカスすべきなのか、SaaS事業部のCTOである榎本さんの力を活かすためにはどんな体制が必要なのか…。みんなが目の前の仕事に集中できるように、僕は中長期的につまずきそうなところを伝えています。
本音を言いますと、バリバリと現場で働きたい気持ちがあります。ですが、僕はチームを信頼しています。みんなが正しい方向へ向かうために考えごとができるようにサポートしたほうが、僕のバリューを発揮できる。ここは、CTOとして強く意識しているところですね。
手嶋:お2人は近い考えがあるようでけっこう意見が違っていたりします。松本さんはプロダクト組織をスケールさせるために、個人に依存させない考え方がある。一方で榎本さんは少数精鋭なチームで、卓越した個人がチームワークで解決する組織を目指す考え方です。そういった考えを戦わせながら、時には統合させながらLayerXのプロダクト組織は進んでいる印象があります。榎本さんは、このあたりどうですか?
榎本:僕は理想が強く、責任感ある個人が裁量を持って働くことができ、そして背中を預け合えるチームが理想だと思っています。とはいえ、このやり方はフェーズを意識する必要性もあると思っています。立ち上げ期は少人数がベストでも、スケールするなかでは要望やトラブルへの対応が積み重なり、負債も出てくる。必ずしも少人数の組織で動き続けることが健全というわけではありません。
なので、プロダクト組織は少人数で築いたほうがいいと思いますが、成熟したプロダクトに関しては必ずしもその方法がベストだとは考えていないんです。スーパーマンみたいな人を採用できたら実現できる可能性はありますけれど。シニアなエンジニアばかり集めるより、カルチャーがしっかりマッチした若手が活躍できる組織のほうがいいのかもしれないと、松本さんと話していて感じます。そういった濃淡がある組織もいいなぁと思いつつ、やはりスーパーマンみたいな人と一緒に仕事したい気持ちもあり…揺れ動いています。
手嶋:松本さんはどうですか?個人で力を入れるところと、組織としてスケールするところで、今後どうしていこうとしていますか?
松本:組織のスケールと、個人の力で開発を進めていくことに矛盾を感じていません。どちらかと言うと、一人ひとりが楽しく仕事ができる状態を作れるかどうかがスケールさせるうえで大事だと思っていますね。榎本さんをはじめとしたスーパーエンジニアがタスクと向き合えるよう、それ以外のことをいかに避けられる状態を作れるかが今後のチャレンジですね。もちろん、そういった場作りと、実際にパフォーマンスを出せる人を採用することに多少の濃淡はありますけれど。
手嶋さんが話しているとおり、僕と榎本さんは社内で一番意見がぶつかる仲です。そのなかでバランスをとりながら体制づくりを進めていくのがちょうどいい塩梅かなと思っているので、今後も意図してバチバチしていきます!
手嶋:補足すると、一応みんな仲がいいんです。初めてお2人の議論に立ち会ったときは少し緊張しましたけれど!LayerXは組織のあり方を青臭く議論し続けていることを伝えたかったのです。
LayerXで追求するのは「業務ごと消し去る」抜本的変化
手嶋:LayerXでは「体験」という言葉がよく使われています。意図的にこの言葉を使っている背景も知りたいです。
榎本:僕らはSaaSを提供しています。つまり、業務に密着したプロダクトを開発しているんです。いかにその業務をスムーズに・思い通りに・今までにないやり方に変えられるかが肝となります。効率化だけでなく、その業務ごと消し去ってしまうほどの抜本的な変化をもたらして「今までは何だったのか」と思われるようなものを提供したいと思っています。
そういえば以前、バクラクを導入した方から「毎月すごく憂鬱だった請求書処理が、バクラクを入れてから楽しみになった」と言っていただけたことがありまして、それがすごく嬉しかったです。
手嶋:それはすごい!業務フローを変えたことで印象に残ったエピソードは他にありますか?
榎本:2022年5月に「バクラク経費精算」をリリースしました。このサービスのこだわりポイントは「申請者がどれだけ楽をできるか」。経理担当者にもヒアリングしたところ「二重で同じ申請が来ないかに気を張ってチェックしている」「月を跨いだ申請に困っている」という声が多かった。そういった業務自体を意識からなくしたかったのです。
そこで意識していたのは「OCRがあることを前提にプロダクト設計する」でした。
今までの経費精算サービスは、書類を一枚ごとアップロードして、支払先や料金、期日を入力していくフローでした。バクラク経費精算ではOCRがあることで、一枚ごとアップロードする必要すらなくしました。さらに一度アップロードすればOCRが書類内容を読み込み、必要項目を自動で入力してくれる。そんな様子がわかるデモを社内で見せると好評で「これだ」と手応えを感じました。
ソフトウェア活用を前提にした経営スタイル
手嶋:LayerXは「奇を衒う」というより、原理原則に忠実に組織運営してますよね。テックカンパニーとして今後目指したいアイディアはありますか?
松本:ソフトウェアを前提にした経営スタイルが僕自身の中でもしっくりし始めています。なので今後は榎本さんが先ほど話していたように「OCRがあればこんな体験になる」を前提に開発を進め、経営していくことになります。そのうえで、みんなが武器にしてきたスキルや経営知識を活かしたらどんな会社になるのか。そんな発想でジャンプアップした組織を作ることが大事だと思っています。
僕が意識すべきは、メンバーのコアを再認識しながら経営していくこと。今後はメンバーがツールを通じて、より自律的に意思決定できるケースをたくさん作っていきたいです。
例えばNotionやZoomで情報をまとめたり残したりして、LayerXのスタイルをインストールするなど。ツール活用は、ソフトウェア経営時代ですごく重要な意味があります。それが自然に、組織づくりのコーディネートにつながっていくわけですから。
手嶋:榎本さんからまた違う角度の考えはありますか?
榎本:技術を当たり前に、空気のように扱える会社が素敵ですよね。松本さんが話していたように、SaaSやツールを日々の改善に活かし、そのために機械学習やAIなどの選択肢が社内に浸透している。そんな視点が「当たり前」のように社内で浸透している姿が理想です。
技術とはツール活用だけでなく、再現性も欠かせません。意思決定時はデータやダッシュボードを見て、再現性を持って判断していく。そのためには技術や数値が空気のように社内に浸透しているような環境が健全に作用することが大事だと思っています。
LayerXのエンジニア採用で「注目しているポイント」
手嶋:お2人に話してもらったような考えを、新しく入社する人たちへどうやって浸透させているんでしょうか?
松本:前提として、採用はとても丁寧に行っています。CHROである石黒さんが中心となり、「正しい人に応募してもらう」「適切な人が適切なポジションに応募してもらえるように丁寧な発信をする」と、面接でも一人ひとりが妥協することなく仲間集めに徹底できています。
そのなかで、オンボーディングでも課題にぶつかるたびに「LayerXらしさとは?」と仕組みを見直しています。榎本さんがよく言っている「エアプをするな」の言葉も刺さっていますね。先ほどの「裏ニーズ」もあり、きちんとお客様を見てコミュニケーションを促していくやり方を各チームで実践できているところを見ると、採用や文化づくりはうまく進んでいると感じています。
手嶋:技術力の高くカルチャーフィットする人を仲間にするため、どこを重視しているのですか?
榎本:技術力にフォーカスしすぎるとLayerXでのカルチャーにはあまりフィットしなかったりします。そのため、おもに以下の内容も見ていますね。
- 何をモチベーションにしているのか
- どんなことにワクワクするのか
- 何をもって成功を感じるのか
- こだわったが失敗してしまったエピソードを話してくれるかどうか
手嶋:最近ではVP of EngineeringやEngineering Manager(EM)の募集も続いていますよね?
松本:正直、なぜEMが必要なのかをチーム内で議論している最中です。僕としては、エンジニアのパフォーマンスを最大化するために必要なピースだと捉えています。なぜなら、目の前の開発に打ち込み続けながら、組織運営もしていかなければならないから。スーパーエンジニアたちが最高のプロダクトを作る環境を整えることに対して、興味や面白さを感じるEMを求めています!そういった方がいれば、バクラクは数倍面白いプロダクトになります。
手嶋:今一番EMを求めているのは榎本さんだと思います。何かひと言あれば。
榎本:一言だけ、「助けてください」。
僕としても、同じ船に乗って最高のプロダクトを作る組織を一緒に築いていきたいです。これまでのキャリアでも面白い環境下で組織やチーム作りをしてきましたが、今が一番楽しくて速くて、お客様に寄り添えるチームができていると思っています。そんなチームでさらにプロダクト展開していくわけなので、どんな要件のEMが必要なのかはまだまだ話し合っているところ。(まだ整っていないところが多いため)カオスも含めて楽しめる方がいいかもしれませんね。一緒にいいプロダクト・組織をつくっていきたいです!
手嶋:実は松本さんと榎本さんが2人一緒に話すことは珍しく、経営会議でもシリアスに激論しているところも伝えられて、今日はよかったと思います。松本さん、榎本さん、ありがとうございました。
松本、榎本:ありがとうございました!