LayerX エンジニアブログ

LayerX の エンジニアブログです。

LayerXの事業と爆速開発文化 -LayerXエンジニアブログ開設に寄せて-

こんにちは、LayerX CTOの松本です。LayerXはBlockchainの会社と思われがちなのですが、現在は技術軸にとらわれず広く「すべての経済活動を、デジタル化する」ために様々な開発を行う組織となっています。

そうしたLayerXの今の技術組織を知っていただきたいという目的から、エンジニアブログをスタートしてみようということになりました。今月はスタートということで、とりあえず開発チームのメンバーが持ち回りで毎日1記事投稿していき、我々が今やっていること、等身大の姿を知っていただきたいと考えています。

もし少しでもLayerXの開発チームに興味を持って頂けたら、カジュアルにお話させていただけると嬉しいです。

note.layerx.co.jp

というわけで初日の記事では、LayerXという会社が取り組む事業とそれを支える組織の在り方について、松本として感じたこと考えていることを社内や将来の仲間に向けて書いてみようと思います。本記事で紹介するLayerXが重視する価値観を下地として、これから日々公開される様々な記事を読んでいただけると良いかもしれません。(4月1日ですがエイプリルフールネタではありません…)

LayerXの短・中・長期

LayerXはまだ所帯40人弱の小さなスタートアップですが、今の時点から3つの事業部を持ち、事業のポートフォリオを意識しながら経営しています。取締役の手嶋が以前一緒に面接に出た折に「普通の会社になりたくない」と言っていたのが印象的だったのですが、こうした事業ポートフォリオは、必要と思うリスクを意識的に取っていくという覚悟の元で長期間発展し続けることを目指し構成されています。

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すべての経済活動を、デジタル化する」、少し言い換えると、デジタルな技術を通じて経済活動をより摩擦の少ないなめらかで便利なものにしていくためには、対象となる経済活動を理解し、さらにはソフトウェアによってどう改善が可能なのか探索し続ける必要があります。短・中・長期はそれぞれ探索の方向が異なり、これらを考え続けることがLayerXのミッションとして重要です。

短期においては、見えた課題を元にそれを解決するプロダクトを広く届けることを目指しています。LayerX インボイスがその象徴となりますが、コーポレートにおける業務の中でデジタル化最後の壁となっていた請求書の受け取りという非常に具体的な課題から、これを解決するプロダクトを開発し届けているものです。

解くべき課題が明確になりつつある分、それを広く届けるための改善が重要で、ここではマーケティング、営業、カスタマーサクセスと密に連携しながらより顧客にとって使いやすいプロダクトとなるよう日々磨き込んでいます。日次・週次で新たな機能を作ってより広く多くの顧客にデジタル化を届けられるよう、改善を続けています。

中期では、様々なパートナーと連携しながら一つのカテゴリを深く掘り下げています。三井物産デジタル・アセットマネジメント(MDM)がこの領域で重要な取り組みとなっています。アセットマネジメント(AM)という金融領域において、ソフトウェアによる事業全体の再設計を目指していくことで、強いAM事業者となることを目指しています。

深堀りの過程では、様々な明確な課題に直面することとなりますが、これが短期軸の事業に繋がっています。実際、請求書領域の苦悩をMDMの中で感じたことがそのままLayerX インボイスという事業につながりました。具体的な課題に自分自身が直面することで初めて課題の輪郭を捉えることができると考えていますが、その目的においてこの中期的事業の取り組みは、SaaSとして広く解くべき課題を浮かび上がらせる重要な場でもあります。

長期となるR&Dでは、様々な研究開発を通じて技術の未来を考えながら、”遠く”を見通すことを目指します。現在我々のR&D組織であるLayerX LabsではTEE×Blockchainの研究から生みだしたAnonifyという技術を中心に、プライバシー領域や企業間連携領域において将来使われるであろう技術の先端を切り開こうと奮闘しています。今はデファクトではないが、重要である技術を磨き込み、長期で新たな事業を生み出すことが目的となります。

この長期的取り組みは結果として中期的取り組みにもつながります。これまでも、Blockchainそのものの研究開発が様々なパートナーとのPoC(Proof of Concept、実証実験)に繋がり、これを契機として中期的な取り組みがスタートしてきました。Anonifyや秘匿化技術、Blockchainを通じてプライバシーや企業間連携の未来と向き合うことは様々な企業の長期戦略に資するものともなります。こうした連携を通じて新たな事業を生み出し、そして広いデジタル化を生み出す事ができるのではないかと考え、たとえ小さな組織であろうとR&Dを強みとして持ち続けていきます。

爆速開発という組織文化とAgility

こうした事業軸を展開するにあたって、一つ一つの事業部は非常に小さな組織であるという前提の元、意識しているのが開発をどれだけ高速に回せるか、爆速開発というところになります。

爆速開発、といってもただ単に素早く開発していこうというだけでなく、その中で共通のツールや知識を積み上げ、意思決定軸を揃え、また作ってきたものを捨てることをいとわないということを包含しています。それにより、開発速度に優先度を強く振りつつも、トレードオフにある品質・機能数・コストなども、日々少しずつレベルを上げた状態をデフォルトにすることへ繋がります。

自分がこの組織に入った際に、LayerXの特徴として他社と比較して強く感じられたものが開発の速さであり、社外の方に組織の特徴を伝える際にも最もわかりやすい要素の1つではないかと思っています。これはメンバーで示し合わせたわけではないものですが、自然と顕在化した我々の文化となっており、そしてLayerXの将来にとって重要な文化だと感じています。文化とは、明示化されたミッションやバリューそのものではなく、そうした方針の先に生まれてくる行動様式だと考えていますが、爆速開発はまさに組織の開発における文化となってきているように思います。

経理業務やアセットマネジメント事業、および過去取り組んできた様々な大企業連携は、どれ一つとってもメンバーが経験したことのある領域ではありません。また、その中でパートナーの方々から期待されているものは一般的な解決策ではなく、より高いレベルでのデジタル化を素地としたプロダクトです。

そして未知の領域で新たな解を生み出すにためには、Agility、つまり(これは自分なりの定義ですが)「失敗をコントロールしながら継続的に挑戦し続ける」ような取り組みを通じてより深く対象を知り、適切なプロダクトに日々近づけていく必要があります。

このAgilityを高めようというところに対して、”爆速”開発とここしばらく呼んでいる高速な開発・検証プロセスは相性が非常に良いと考えています。全く先が見通せない不確実性の高い領域では、明確なゴールの設定が初期から行えるわけではなく、またそのゴールに向かってどのように進めばよいのか、解像度の高い地図も存在しません。

だからこそ、とにかく作っては壊し、最適なプロダクトとはなにか探り続けることが重要となります。自分が入社してから今現在に至るまで、アセットマネジメント事業の中で相当量コードを書かせていただいているのですが、どんなに事前に仕様を明らかにしようと取り組んでも、やはり具体的なプロダクトに落としてみるとより明確な解を得ることができるなという実感があります。実際に使う人の心理的な状態、その前後における業務プロセス、暗黙知となっていた事業における強みなどを知り言語化することで、本当の意味で重要なデジタルを生かした解が生み出せるといえるのではないでしょうか。

また、未知に向き合う以上、今作っているものが間違っていることも多々あり、誤りをいつ訂正するのかということも長期で事業を営む上で大切になります。素早く作り、また素早く捨てられる環境を意識することで、ソフトウェアアーキテクチャと事業のずれを小さく小さく修正しながら前にすすめることが、現時点ではある程度ワークしているように感じます。

もちろん、事業に対する解を生み出し続ける、そのための開発速度を優先することは、ご想像の通りソフトウェアにおける技術的負債にも繋がりえます。しかしながら、これを許容しながらも知見を積み上げ常に社内のデファクトスタンダードのレベルを高めていくことで、極力負債を抑え込みながら速度を保つことを目指したい、それがCTOとしての自分の役割であり、それにより短・中・長期のLayerXの取り組みを支え、「すべての経済活動を、デジタル化する」ことに寄与することができるのではないかと考えています。

明日以降の様々なメンバーからの発信を通じて、実際にこの爆速開発な文化をどのように作っているのか、またより高めようとしているのか、等身大の現状を知っていただけたらと思います。