バクラクビジネスカード開発チームのTech Leadの @budougumi0617 です。今回はプロポーザルを書く時に私が気をつけていることを紹介します。
大きいカンファレンスで登壇するためには、CfP(Call for PapersもしくはCall for Proposals)にプロポーザルを応募して採択してもらう必要があります。
人気のカンファレンスでは採択倍率が二桁になることもあります。
私は過去Go Conferenceで3回、PHPerKaigiで1回プロポーザルが採択された経験があります。また、Go Conference運営として数回プロポーザルを審査する立場になった経験1もあります。
今までプロポーザルを書いた経験、会社メンバーのプロポーザルをレビューした経験から気をつけていることをまとめました。
「ここはこうじゃない?」「こういうコツもあるよ!」というご意見あれば是非Xなどで教えて下さい!
最初にまとめ
- プロポーザルを書くときの心構え
- プロポーザルを出すことにデメリットは何もない
- プロポーザル締切時点で完全に理解している必要はない
- プロポーザルを書く時に気をつけていること
- どんな聴衆を想定しているのか
- 発表を聞いた聴衆はどんなことを学べるのか
- ゴールがカンファレンスのテーマと合っているか
- 発表のアウトライン(時間配分)を明示する
- 比較対象はディスらない(炎上する可能性はないか)
- 根拠となるファクトまたは経験を述べる
- なぜ私が説明するとよいかを説明する
- おまけ: 発表ネタの探し方
まず、コツの前にプロポーザルを出すときのモチベーションについて少し書いておきます。
プロポーザルを出すデメリットは何もない
プロポーザルを出して不採択になることはあります。
ただ、不採択になったとしても「不採択になったら次回は応募できない」みたいなペナルティがあるCfPは聞いたことがありません。
なので、「こんな内容じゃ無理かな?」と思ってもまずプロポーザルを提出することが大事です。
「こんな初心者レベルの内容じゃ採択されるわけがない…」と思ってもまずは応募してみましょう。後述する理由で採択される可能性はありますし、どんな内容を送ってもペナルティはありません。
プロポーザル締切時点で完全に理解している必要はない
「自分の知識じゃ話せることないな…」と思う方もいるかもしれません。
が、大抵の場合プロポーザルの締切はイベント開催日の数ヶ月前です。3ヶ月前ならば四半期目標なども一回こなせます。
なにが言いたいかというと、プロポーザルを出した後の数ヶ月で登壇する内容を理解すればよいのです。
プロポーザルはある意味OKRです。「私は登壇日までに◯◯を発表できるようになります」という宣言です。
弊社の@yu__ya4や @y_matsuwitterも薦めている「登壇駆動学習」というワードがあるとおり、「今の知識」ではなく、「半年後までに知りたい知識」でプロポーザルに書いてもよいわけです。
----すぐにでもできることはありますか?
発信することでしょう。技術ブログを書くのもいいですが、とくにおすすめしたいのはイベントに登壇することですね。
僕は「登壇駆動学習」と呼んでいるのですが、先に登壇すると決めて逃げ道を塞いでから発表内容をまとめるやり方はいいですよ。人に伝える以上間違ったことは言えませんから、一生懸命勉強するでしょうし、学んだことを自分の言葉で伝えようと思ったら、細部まで理解を深める必要があります。登壇の準備自体が、学びの理解度を深めるプロセスなんです。
プロポーザルを書くTips
せっかくプロポーザルを出すならば採択されたほうがうれしいですよね。
同じネタでも、あるいはネタがよくてもプロポーザルの書き方次第では不採択になることもあります。ここでは「こう書くと採択されるかもしれない」というテクニックをいくつか書きます。
どんな聴衆を想定しているのか
想定している聴衆レベルが明示的に書けるということは、それだけであなたが登壇内容について解像度を高く持てているということです。
また、必ずしも上級者向けである必要はありません。どのカンファレンスでも複数のセッションが行われます。すべてのセッションが上級者向けになることはありません。初心者向け、中級者向け、上級者向けをある程度バランスよく配分します。
そのため、プロポーザルの中で明示的に「このプロポーザルはどのレベルの聴衆を対象にしています」と書いてあると「初心者向けの中ならばこの発表がよさそう」という選ばれ方もありえます。
発表を聞いた聴衆はどんなことを学べるのか
カンファレンス(運営)のKPIは「参加した人がどれだけ満足できるか」です。
先程の想定聴衆も関連しますが、審査のときは以下のことを考えます。
- 参加する人の何割がこのプロポーザルの内容を聞きたいと思うか
- 登壇の内容を聞いたことでどれだけの参加者がスキルアップできるか。明日から業務を効率化できるか。良いエンジニアライフを送れるか
なので「聞いた人がどんなメリットを得られそうか」をプロポーザルで明らかにしてください。そしてなるべく多くの人が興味をもつようなメリットを設定してください。
ここが正しく審査メンバーに伝わらないと採択される可能性が低くなります。
例
例えばGo Conferenceに「AIエージェントに関連したGoの自作ライブラリを作った話」でプロポーザルを出すとします。
ネタ的にはAI系は旬な話題な気がするので良さそうです。これを料理する方法はいくつかあります。
- 「この登壇ではGPTsを簡単に実行できるGoの自作ライブラリを紹介します」
- GPTを普段使っている人、あるいはライブラリを探している人が聞きたくなる?
- 聞いた人の満足度はこの自作ライブラリがどれだけ有意義かに依存しそう
- 自作ライブラリの宣伝だけで終わっちゃいそうという懸念がある
- 「GPTsを実行するGoの自作ライブラリを作った際に得られた、外部サービスのAPIをコールする際のノウハウやGoライブラリ設計についての私の考えを発表します。」
- 外部APIを叩く実装をする人が聞きたくなりそう
- ライブラリとかpkgの切り方に悩んでいる人が聞きたくなりそう
同じネタでも下のほうが多くの人が興味を持ちそうだと思いませんか。
Go Conference 2025のCfSにある審査基準ではこのトピックについて以下のように言及しています。
- インパクト: 参加者がセッションから何か新しいアイデア、技術、ツール、情報を得られるものにしてください
ゴールがカンファレンスのテーマと合っているか
だいたいのカンファレンスはメインテーマがあります。ホットなネタでもテーマと外れていると不採択になる可能性があります。
たとえば、GoのカンファレンスでRustの話をする人はいないと思います。
では「Goで作られたKubernetesのツールの紹介をします!」だとどうでしょうか。これは私の感覚だとちょっとグレーゾーンです。「Kubernetesのツールがどうすごいのか」についての登壇になりそうなら他のプロポーザルが優先されそうです。
「Kubernetesのツールの実装から見るGoでライブラリを作るときのtips」だったら採択されそうです。
パッと判断する方法でいうと 「このプロポーザル内容ならば、このまま別のxxxカンファレンスにも応募できそうだな」と思ったらちょっと書き方やゴールを見直したほうがよい です。
Go Conference 2025のCfSにある審査基準ではこのトピックについて以下のように言及しています。
- Goとの関連性 : Goコミュニティに関連したトピックにしてください。
発表時間のアウトライン(時間配分)
運営はプロポーザルの記載内容だけで登壇者を決めます。「ネタ」自体もそうなんですが、「ちゃんと予定通り発表できるのか?」も重要な要素です。
箇条書きなどで予定時間配分が書いてあると、ポイント高いです(もちろん当日厳密に守る必要はありません)。
「なるほど時間通りの発表してくれそう」「解説には10分もかけてくれるならば濃い解説になりそう」という判断ができます。
逆にネタがおもしろくても、「書いてある内容全部やってたら20分で終わらなくない?」と判断されると不採択になる可能性があります。また、前述のとおりテーマと合っているのかが重要なので、「Goのカンファレンスなのにツールの使い方がメインになるっぽいな」と勘違いされても不採択になる可能性があります。
Go Conference 2025のCfSにある審査基準ではこのトピックについて以下のように言及しています。
- 明瞭性 : セッションの内容を明確に記載してください。
- 達成可能性 : 時間以内にしっかり伝えられる内容にしてください
比較対象はディスらない(炎上する可能性はないか)
プロポーザルを採択するということは運営が「話していいよ」とOKサインをだしたということです。なので発表が炎上するような(しそうな)内容は採択しづらいです。
たとえばGoのカンファレンスだからと言って、他言語の悪口を言ったり貶すことが予想される内容だと避けられます。
もちろん「業務中にpros/consを並べた結果xxxよりyyyのほうがよいという結論になった」というファクトを入れてはいけないということではないです。
根拠となるファクトまたは経験を述べられるか・なぜあなたが説明するとよいのか
カンファレンスによると思いますが、Goカンファレンスの場合は応募者の登録情報を匿名化した状態で審査します。プロポーザルの内容ではなく、応募者のネームバリューや役職バリューで選んでしまうことを避けるためです。
なので、プロポーザルの中で「こういう知見・経験があるので私が発表するアドバンテージがあります」と事実が書いてあると「あ、この人ならちゃんと説明してくれそうだな」という風になります。
例
- o11yについて、マイクロサービスを業務経験でx年扱った経験に基づいて話します
- JavaやRustと言った複数の言語の実装経験をベースにGoのジェネリクスについて解説します
たぶんここまで読んでくださった方も冒頭を読んで「まあこいつ採択実績あるなら話半分でも読んでみるか」と思って読み始めてくださったのではないでしょうか。
話すネタを探すコツ
前述したとおり、現時点の知識でネタを選ぶ必要はありません。
たとえば、次の四半期の業務で挑戦する内容をネタに応募してみるのもよいでしょう。
また、言語やツール系のカンファレンスならば、直近追加された新しい機能、もしくは次のバージョンで追加される予定の目玉機能をネタにするのおすすめです。カブる可能性はありますが、ニーズは一定あります。
Goならばtipサイトでリリース予定の次期バージョンのリリースノートを確認したり、proposal: review meeting minutes
を見て今後の動向を確認したりできます。
※ tip.golang.org
なので正式版のリリースノートではありません
tip.golang.org
余談
「CfP」はカンファレンス運営側が書く「募集要項」です。登壇したい人が書くのは「プロポーザル」です。
よく「CfP提出した!」という投稿を見かけますが、本当は「プロポーザルを提出した!」です 🤐
参考リンク
他のみなさんが書かれているプロポーザルの書き方も参考になります。
以下は https://sessionize.com/gophercon-2024/ で紹介されている海外の関連記事です。
Recommended Reading
- Submit a Talk to GopherCon! | Carolyn Van Slyck
- How to write a successful conference proposal | by Karolina Szczur | Medium
- How to write a successful conference proposal | Dave Cheney
- Technology As If People Mattered | Talking Tech: Getting Your Proposal Through the Door
おわりに
この記事ではプロポーザルを書く時に私が気をつけていることをまとめました。
多くのみなさんの事例・成果をカンファレンスで聞けるのを楽しみにしています。
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- 今も運営ですが、公平性のため会社メンバーのプロポーザルをレビューするようになってからは審査に参加していません。↩